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Short Story by Music

あの曲が小説になったら・・・

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愛のかたまり

【小説】 愛のかたまり  (参考楽曲 by Kinki Kids)

「こんな時間に電車に乗ったらダメだって言ったろ? 満員電車なんて何があるかわからないんだから」
「大丈夫よ、何もなく無事についたもん」
「無事だったからよかったけど、一人なんだし、また痴漢にでもあったら・・・あんまり俺に心配かけないで」

 そう言って彼は大事な物を包み込むように、私を抱きしめた。
 先週、二人で選んで納品されたばかりのソファの上で、裕に3人は座れるサイズなのに、端の方で私を膝の上に横座りさせている。彼は意識してない だろうけど、耳元で話す囁き声は、いつだって私を甘く酔わせるから、つい目を閉じてしまう。すると見えなくなった分、私の嗅覚は彼の匂いに敏感になり、肌 はその体温を普段以上に感じ取れるようになる。

「こっち向いて」

 目を閉じたまま彼へ顔を向けると、唇同士が重なり、甘美な刺激を執拗に求め合う。
 そう、いつだって、一緒にいれない時でさえ、私は彼を求めてやまない。だから彼を想って目を閉じた時、例えそれが電車の中でも、街頭であっても、彼と似た匂いを嗅ぎ取ると自制できずに、その人に彼の面影を重ねてしまったりする。

 もっと触れて、もっと愛して。
 甘えて頬を摺り寄せてくるところも、力強く私を抱く腕力も、私にとっては"男"としか思えない。どんなに年齢が離れていても、周りからどう見られても、馬鹿馬鹿しくなるほどだ。

 もっと強く抱いて。痛みを感じるほど。
 傍にいる証明に、目を閉じていても私に夢中だと感じさせて。ずっとこれからも離さないと誓う代わりに、私の胸にたくさんの痣を残してほしい。ほんの少しでも湧き上がる不安を吹き飛ばすように、耳元で囁いてほしい。
 
 彼がいるから、私は女であれる。
 愛に溺れて、塗れて、染まっていく。彼の世界に、彼の色に。
 降り積もった雪に凍えることがないように暖めて。雪が解けてもなお、一番傍で見ていたい。

「あ、もう12時だ」

 ベッドの中で汗ばんだ体で私を抱き締めた彼が、枕元の時計を見て言った。

「帰らなきゃ、終電なくなっちゃう」

 起き上がろうとした私を、彼が慌ててねじ伏せた。

「電車はだめだって。もう今日は帰さないから」
「でも・・・」
「帰さない」

 また唇が重なって、私は流されるように目を閉じていた。
 私を過保護にして、男として守ってることを主張してくる彼がいとおしい。こうしてまた彼に抱かれ、寄り添って眠り、目覚めた朝、また愛されることが何にも変えがたい幸せだ。
 彼の前だけで見せる仕草や、彼にしか言わない甘い言葉が、自分のことも潤していく。かわいい女でいたい。女が女であり続けることで、男は男としてい続けられる。互いが互いの性を磨き合うのだ。

 この愛が絶える事ない限り、命が尽きる、その時まで。

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