Short Story by Music
あの曲が小説になったら・・・
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Stereo
Stereo 楽曲 by 錦戸亮
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お前がこの部屋にいることを現実だと思うには、もっとその体温が必要や。ただ見つめてるだけやと、これまで見てきた亡霊かと勘違いしてまうから。
いろんなことがあって離れ離れやったけど、こうして肌と肌を合わせて、俺にしか聞けへん甘い声を聞けて、俺の名前を呼んでくれるその唇の柔らかさとか、そういうことをまた積み重ねていける未来に、俺はよう思いを馳せたりしとる。
なぁ、離れてた時間、古風に文通なんかして、お前から手紙が届くのが楽しみで、いっつもすぐに返事を出しとったけど、その時の辛さは言葉には表せ ないくらいやってんで。俺らの歴史やお前が忘れていったものをいくらかき集めても、胸にぽっかりと穴が開いたみたいになっとって、その隙間を埋められへん かった。一緒におるのが当たり前やった頃が眩しくて、一人になった今の方がお前の存在を強く感じてまうねん。
物理的な距離と、心の距離、どんなに縮めようとしても、追いかけた分遠ざかっていったお前のことを恨みたくなったこともあったくらいや。
それなのに、お前が戻ってきてくれたら、その穴は埋まるどころか、スペースがたりひんようなってもうた。お前のすべてを包み込んで、どんなことから守ってやれる男の器ってどんなもんなんかな?
「なぁ、これええかげんにほかしてぇや。いつまでも置いとったら恥ずかしいやんかぁ」
照れ屋やからって、自分が書いた手紙がテーブルに置いてあるのが嫌らしい。
「別にええやんか、俺のもらったもんなんやから」
「もう、こんなもん・・・」
いきなり極太マーカーを手にとって手紙に落描きしようとするから、
「あー、それはあかんて! せめてボールペンにしてぇや」
それを止める名目でお前の腕をつかんで羽交い絞めにできるんやけど。
もう落描きだらけになった手紙の封筒たち。こんなことするから余計にしまいこめなくなっとるって、お前はわかってんのやろか。
「・・・このままベッド行こか?」
「まだ起きたばっかり・・・」
こうやって唇をふさいで黙らせることができることを、ほんまに幸せに思う。
何度抱いても、もっとほしくなる。
抱いてるつもりが、ほんまは抱かれてるからなんかもしらん。
もう一生離さないって思うてるのに、この一瞬さえも貴重に感じられて、この目で肌で、指で、お前のことを全部記憶させたい。これまでの若さと、今の情熱と、これから少しずつ老いていく過程も全部。一緒にいれない時間も目を閉じればお前を感じられるように。
俺が一度手紙の代わりに送ったCD-Rで、俺の曲をよう聴いてくれてると言うてて、少し恥ずかしいけど嬉しかった。それと同じように、俺にとったらお前の書いてくれた手紙の一つ一つと、この部屋で再会できた時に二人で書いた婚姻届けをよう読み返しとる。
一人で寝りにつく前に、ベッドサイドの引き出しからそっと取り出して、開いて見とる。綺麗な字で書かれたお前の名前、ほんまは旧姓書くとこやのにフライングして、俺の苗字に自分の名前を書いた時はほんまに大笑いした。
いつかきちんと清書しようって約束は、いつ叶えよか?仕事のことが頭を掠めるけど、そんなことはどうでもええって思ってる。けどやっぱりお前が一番やから、一人では決められへんねんな。
急に広げて見たくなって、引き出しを開けた。寝転がったまま両手を上に伸ばしてA3サイズの紙を広げた。
「ちょ、まだ取ってあったん?」
隣で驚くお前の声。すぐに取り上げようとするやろなって先読みして、その手をするりとかわしたった。書き損じたからと、一度こいつのせいでオシャカになりかけたこの紙は、丸められた時の後でくしゃくしゃになっとるのに、アイロンかけたんやぞ、俺が。
「もう嫌や、失敗したのの弱み握られとるみたいや」
「ほな、新しいの書く?」
「・・・か、書く?」
また照れて噛んどるし。
俺は婚姻届を床に投げると、愛おしい人を抱き締めた。
「俺と結婚する?」
「もう一応婚約しとるやん」
「する?」
「・・・する」
照れ笑いする顔が好きや。
ドSのくせに、たまに甘えてくるとこが好きや。
口とは裏腹に、俺の為に一生懸命なところが好きや。
こいつを構成する、すべてのものが好きや。
一つ一つの一瞬の表情を記憶に焼き付けて、永遠に生き続ける。
俺の中で一生。
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お前がこの部屋にいることを現実だと思うには、もっとその体温が必要や。ただ見つめてるだけやと、これまで見てきた亡霊かと勘違いしてまうから。
いろんなことがあって離れ離れやったけど、こうして肌と肌を合わせて、俺にしか聞けへん甘い声を聞けて、俺の名前を呼んでくれるその唇の柔らかさとか、そういうことをまた積み重ねていける未来に、俺はよう思いを馳せたりしとる。
なぁ、離れてた時間、古風に文通なんかして、お前から手紙が届くのが楽しみで、いっつもすぐに返事を出しとったけど、その時の辛さは言葉には表せ ないくらいやってんで。俺らの歴史やお前が忘れていったものをいくらかき集めても、胸にぽっかりと穴が開いたみたいになっとって、その隙間を埋められへん かった。一緒におるのが当たり前やった頃が眩しくて、一人になった今の方がお前の存在を強く感じてまうねん。
物理的な距離と、心の距離、どんなに縮めようとしても、追いかけた分遠ざかっていったお前のことを恨みたくなったこともあったくらいや。
それなのに、お前が戻ってきてくれたら、その穴は埋まるどころか、スペースがたりひんようなってもうた。お前のすべてを包み込んで、どんなことから守ってやれる男の器ってどんなもんなんかな?
「なぁ、これええかげんにほかしてぇや。いつまでも置いとったら恥ずかしいやんかぁ」
照れ屋やからって、自分が書いた手紙がテーブルに置いてあるのが嫌らしい。
「別にええやんか、俺のもらったもんなんやから」
「もう、こんなもん・・・」
いきなり極太マーカーを手にとって手紙に落描きしようとするから、
「あー、それはあかんて! せめてボールペンにしてぇや」
それを止める名目でお前の腕をつかんで羽交い絞めにできるんやけど。
もう落描きだらけになった手紙の封筒たち。こんなことするから余計にしまいこめなくなっとるって、お前はわかってんのやろか。
「・・・このままベッド行こか?」
「まだ起きたばっかり・・・」
こうやって唇をふさいで黙らせることができることを、ほんまに幸せに思う。
何度抱いても、もっとほしくなる。
抱いてるつもりが、ほんまは抱かれてるからなんかもしらん。
もう一生離さないって思うてるのに、この一瞬さえも貴重に感じられて、この目で肌で、指で、お前のことを全部記憶させたい。これまでの若さと、今の情熱と、これから少しずつ老いていく過程も全部。一緒にいれない時間も目を閉じればお前を感じられるように。
俺が一度手紙の代わりに送ったCD-Rで、俺の曲をよう聴いてくれてると言うてて、少し恥ずかしいけど嬉しかった。それと同じように、俺にとったらお前の書いてくれた手紙の一つ一つと、この部屋で再会できた時に二人で書いた婚姻届けをよう読み返しとる。
一人で寝りにつく前に、ベッドサイドの引き出しからそっと取り出して、開いて見とる。綺麗な字で書かれたお前の名前、ほんまは旧姓書くとこやのにフライングして、俺の苗字に自分の名前を書いた時はほんまに大笑いした。
いつかきちんと清書しようって約束は、いつ叶えよか?仕事のことが頭を掠めるけど、そんなことはどうでもええって思ってる。けどやっぱりお前が一番やから、一人では決められへんねんな。
急に広げて見たくなって、引き出しを開けた。寝転がったまま両手を上に伸ばしてA3サイズの紙を広げた。
「ちょ、まだ取ってあったん?」
隣で驚くお前の声。すぐに取り上げようとするやろなって先読みして、その手をするりとかわしたった。書き損じたからと、一度こいつのせいでオシャカになりかけたこの紙は、丸められた時の後でくしゃくしゃになっとるのに、アイロンかけたんやぞ、俺が。
「もう嫌や、失敗したのの弱み握られとるみたいや」
「ほな、新しいの書く?」
「・・・か、書く?」
また照れて噛んどるし。
俺は婚姻届を床に投げると、愛おしい人を抱き締めた。
「俺と結婚する?」
「もう一応婚約しとるやん」
「する?」
「・・・する」
照れ笑いする顔が好きや。
ドSのくせに、たまに甘えてくるとこが好きや。
口とは裏腹に、俺の為に一生懸命なところが好きや。
こいつを構成する、すべてのものが好きや。
一つ一つの一瞬の表情を記憶に焼き付けて、永遠に生き続ける。
俺の中で一生。
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