Short Story by Music
あの曲が小説になったら・・・
[14] [13] [12] [11] [10] [9] [8] [7] [6] [5] [4]
いつかまた…。
【小説】いつかまた…。 (楽曲 by 関ジャニ∞)
*************
たばこの煙でグレーに煙るパチンコ屋で隣に並んだツレが言うた。
「昨日学食で見かけたけど、最近暗いな」
「え、俺?行ってねーけど」
思わず右に座るツレを見て言うと、ヤツは台を見つめたまま否定した。
「違うって。お前の彼女だよ。最近うまく行ってないの?」
「別に……なんも変わりはないけど」
俺も台に目線を戻すと、心なしか小さくなった声で返した。
海外一人旅でのハプニングでテストを受けられなかった俺の実質留年が決まり、彼女の就職活動が本格的に忙しくなった頃、俺の浮気未遂がバレてか ら喧嘩することが増えた。気づけばもう5ヶ月以上セックスレスだ。時間が空いても顔を見るのが面倒で、パチンコして時間をつぶすようになった。
「お前、全然大学来ないじゃん。いつまで大学生でいるつもりだよ。このままじゃ来年も留年するんじゃねーの?」
「うるせーな」
「俺らが卒業しちゃったら、余計に行かなくなりそうだな。お前、一人ぼっちじゃん。俺らがいる間に少しでも単位取れよ」
ツレが心配して言ってくれてるのはわかってる。でも彼女にこないだまで耳にタコができるほど言われ続けたことを、ツレにまで言われたくなった。
「……俺、帰るわ。残りの玉やるよ」
「おい、ちょ、待てよ!」
引き止める声を無視してパチンコ屋を出ると、途端に蒸した暑い空気が全身を包み込み、太陽が白い肌を照りつけた。日向っていうのは、道から外れた今の俺には眩しすぎる。
行き場をなくして部屋に帰ると、タイミング悪く彼女がいた。
「……ただいま」
キッチンでコーヒーを入れる彼女に目を合わせないまま言うと、向こうも遠慮がちに「おかえり」と返してきた。気まずい空気の中、座布団の上にどかっと座るとタバコに火をつけた。
「タバコ吸うなら窓開けてくれない?スーツに臭いうつっちゃうから」
「開けたら暑いだろ、クーラーかけてんだから」
さらっと流せば、何も言い返さずに話は終わるって思って言った。
「どうしてそんなに自分勝手なのっ!少しは私のことも考えてよっ」
突然声を荒げた彼女は、がしゃんと音を立ててカップを流しに置いた。
「なに逆ギレしてんだよ」
「ずっとずっと思ってた。留年決まってからいい加減すぎるよ。一生懸命就活してた私が馬鹿みたいじゃない。大学にも行かないし、パチンコばっかり してるなら少しは家のこととかしてくれたっていいじゃない。卒論と就活とバイトでいっぱいいっぱいなのに、浮気するようなヒモみたいな彼氏のために洗濯と かって、そんなのもう、うんざりだよ」
彼女の後姿が震えていた。小さく見えるその姿を急に抱きしめたくなって立ち上がると、彼女が小さく言った言葉に足が止まった。
「卒業してやりたいことあったよね? もう忘れちゃってる?」
俺はレインボーブリッジとか瀬戸大橋みたいな橋が作りたかった。そうなったらきっと転勤も多くなるから早く結婚しようって話してた頃もあった。俺についてきてくれるって、そう言ってた頃もあったんだ。
「私ね、北海道の中学校で教員やることになったの」
「え……」
彼女はゆっくりと振り返ると、赤くなった目で俺を真っ直ぐに見つめた。
「もう私がいなくてもいいよね?」
「お前、お前こそ俺がいなくてもいいのかよ」
「今のあなたは、弱すぎて頼りなさ過ぎるもん。私も支えてあげるには力不足だし。留年するくらいで自暴自棄になっちゃう人の気持ちを理解しように も、全然話もしようとしなかったでしょ?イライラしてすぐにベッドで発散するばっかりで。私は単なるはけ口?私が疲れてても優しい言葉一つかけてくれない のに」
普段と違って饒舌に話す彼女にあっけにとられながらも、すべてが図星だったから何も言い返せなかった。
「だから、私は私のやりたい道に進むことにした」
溜まりに溜まってたものをすべて吐き出したのか、彼女は深く息をついた。
「……別れたいって、そういうこと?」
「自立してほしいの。ねぇ、元のあなたに戻ってよ。私が好きだった頃の……」
最後まで言わせずに抱きしめていた。
「俺、どうかしてた。これからちゃんとするから」
「その言い訳も聞き飽きたよ。お願いだからもっと強くなって」
「俺を一人にするなよ」
「あの頃のあなたに戻ってくれたら、いつかまた会おう?」
もうすっかり一人で決意した彼女の強い意志を感じられる口調に、俺は抱きしめた腕から力を抜いた。
あれから3年がたつ。
俺は彼女やツレが卒業した1年後に無事卒業すると、大手ゼネコンの下請けの会社に就職し、希望通りに橋を作る仕事をしていた。
あの時わからなかったことが、今ならわかる。俺は留年したことで大手への就職が厳しくなったからって、彼女に言われたとおり自暴自棄になってたんだ。現実逃避せずに、そのことを素直に言えてたら、少しは変わってたのかもしれない。
……すべて今更だけど。
あいつは今頃教師をしてるんだろう。生徒に舐められてないか、モンスターペアレントにいびられてないか、少し気になるけど、きっと頑張ってるだろう。
『いつか』がいつ来るのか、俺にはわからない。だけど、その日が来ても胸を張って会えるようにやってきたつもりだ。そしてこれからも、毎日を、明日を立ち止まらずに歩いていこうと思う。
いつか、また。笑って会える日まで。
*************
たばこの煙でグレーに煙るパチンコ屋で隣に並んだツレが言うた。
「昨日学食で見かけたけど、最近暗いな」
「え、俺?行ってねーけど」
思わず右に座るツレを見て言うと、ヤツは台を見つめたまま否定した。
「違うって。お前の彼女だよ。最近うまく行ってないの?」
「別に……なんも変わりはないけど」
俺も台に目線を戻すと、心なしか小さくなった声で返した。
海外一人旅でのハプニングでテストを受けられなかった俺の実質留年が決まり、彼女の就職活動が本格的に忙しくなった頃、俺の浮気未遂がバレてか ら喧嘩することが増えた。気づけばもう5ヶ月以上セックスレスだ。時間が空いても顔を見るのが面倒で、パチンコして時間をつぶすようになった。
「お前、全然大学来ないじゃん。いつまで大学生でいるつもりだよ。このままじゃ来年も留年するんじゃねーの?」
「うるせーな」
「俺らが卒業しちゃったら、余計に行かなくなりそうだな。お前、一人ぼっちじゃん。俺らがいる間に少しでも単位取れよ」
ツレが心配して言ってくれてるのはわかってる。でも彼女にこないだまで耳にタコができるほど言われ続けたことを、ツレにまで言われたくなった。
「……俺、帰るわ。残りの玉やるよ」
「おい、ちょ、待てよ!」
引き止める声を無視してパチンコ屋を出ると、途端に蒸した暑い空気が全身を包み込み、太陽が白い肌を照りつけた。日向っていうのは、道から外れた今の俺には眩しすぎる。
行き場をなくして部屋に帰ると、タイミング悪く彼女がいた。
「……ただいま」
キッチンでコーヒーを入れる彼女に目を合わせないまま言うと、向こうも遠慮がちに「おかえり」と返してきた。気まずい空気の中、座布団の上にどかっと座るとタバコに火をつけた。
「タバコ吸うなら窓開けてくれない?スーツに臭いうつっちゃうから」
「開けたら暑いだろ、クーラーかけてんだから」
さらっと流せば、何も言い返さずに話は終わるって思って言った。
「どうしてそんなに自分勝手なのっ!少しは私のことも考えてよっ」
突然声を荒げた彼女は、がしゃんと音を立ててカップを流しに置いた。
「なに逆ギレしてんだよ」
「ずっとずっと思ってた。留年決まってからいい加減すぎるよ。一生懸命就活してた私が馬鹿みたいじゃない。大学にも行かないし、パチンコばっかり してるなら少しは家のこととかしてくれたっていいじゃない。卒論と就活とバイトでいっぱいいっぱいなのに、浮気するようなヒモみたいな彼氏のために洗濯と かって、そんなのもう、うんざりだよ」
彼女の後姿が震えていた。小さく見えるその姿を急に抱きしめたくなって立ち上がると、彼女が小さく言った言葉に足が止まった。
「卒業してやりたいことあったよね? もう忘れちゃってる?」
俺はレインボーブリッジとか瀬戸大橋みたいな橋が作りたかった。そうなったらきっと転勤も多くなるから早く結婚しようって話してた頃もあった。俺についてきてくれるって、そう言ってた頃もあったんだ。
「私ね、北海道の中学校で教員やることになったの」
「え……」
彼女はゆっくりと振り返ると、赤くなった目で俺を真っ直ぐに見つめた。
「もう私がいなくてもいいよね?」
「お前、お前こそ俺がいなくてもいいのかよ」
「今のあなたは、弱すぎて頼りなさ過ぎるもん。私も支えてあげるには力不足だし。留年するくらいで自暴自棄になっちゃう人の気持ちを理解しように も、全然話もしようとしなかったでしょ?イライラしてすぐにベッドで発散するばっかりで。私は単なるはけ口?私が疲れてても優しい言葉一つかけてくれない のに」
普段と違って饒舌に話す彼女にあっけにとられながらも、すべてが図星だったから何も言い返せなかった。
「だから、私は私のやりたい道に進むことにした」
溜まりに溜まってたものをすべて吐き出したのか、彼女は深く息をついた。
「……別れたいって、そういうこと?」
「自立してほしいの。ねぇ、元のあなたに戻ってよ。私が好きだった頃の……」
最後まで言わせずに抱きしめていた。
「俺、どうかしてた。これからちゃんとするから」
「その言い訳も聞き飽きたよ。お願いだからもっと強くなって」
「俺を一人にするなよ」
「あの頃のあなたに戻ってくれたら、いつかまた会おう?」
もうすっかり一人で決意した彼女の強い意志を感じられる口調に、俺は抱きしめた腕から力を抜いた。
あれから3年がたつ。
俺は彼女やツレが卒業した1年後に無事卒業すると、大手ゼネコンの下請けの会社に就職し、希望通りに橋を作る仕事をしていた。
あの時わからなかったことが、今ならわかる。俺は留年したことで大手への就職が厳しくなったからって、彼女に言われたとおり自暴自棄になってたんだ。現実逃避せずに、そのことを素直に言えてたら、少しは変わってたのかもしれない。
……すべて今更だけど。
あいつは今頃教師をしてるんだろう。生徒に舐められてないか、モンスターペアレントにいびられてないか、少し気になるけど、きっと頑張ってるだろう。
『いつか』がいつ来るのか、俺にはわからない。だけど、その日が来ても胸を張って会えるようにやってきたつもりだ。そしてこれからも、毎日を、明日を立ち止まらずに歩いていこうと思う。
いつか、また。笑って会える日まで。
PR