Short Story by Music
あの曲が小説になったら・・・
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もしも
もしも (楽曲 by wyolica)
***************
「やっぱりイチゴにしとけばよかったなぁ」
「なんだよ、お前。ずーっとハーゲンダッツのチョコアイス食べたいって言い続けてたから、わざわざ来たのに、ここまできてイチゴなわけ?」
そう言われて唇を尖らせた私に、彼は少し呆れたようにため息をつくと、
「俺がイチゴにしといてよかったな」
「うんっ」
「その満面の笑み、わかりやすすぎるから」
と言って、いとおしいものを見るように目を細め、私のほっぺたを摘まんだ。
「痛い、痛いってばぁ」
優しく笑う彼は、なぜかそのまま手を離してくれない。
「痛いって、ほんとに痛いんだってば・・・」
―――そこでハッと目が覚めた。
暗い部屋の中、私は見慣れた自分の部屋のベッドで横たわり、つねられていたはずの頬には、寝る間際まで読んでいた文庫本の角が当たっていた。
「夢か・・・」
吐き出したため息が部屋の中に響いて、吸い込まれるように消えた。
彼の夢を見たのは、久しぶりだ。再会の喜びで胸が甘く痛み、同時に胃のあたりが重くなっている。まだ彼が私の中に根強く残ってるのを、嫌と言うほど実感させられる、こんな時。
楽しかった記憶の断片が、夢の中では見れるというのに、目覚めてる時に思い出すのは、最後のキスのことばかり。
それまでと違って短く、愛情よりも情けを感じるようなキスは、気づかない振りしようにも女に生まれた宿命なのか、私の第六感が激しく点滅してしまい、それが顔と言葉に出てしまった。
「・・・何かあった?」
「え?」
キスのすぐ後、私の肩に手を添えていた彼の目が動揺をあらわにした。
「何か隠しごととかない?」
私の言い方は強くて、彼の逃げ場をなくしてしまったのかもしれないと今になって思う。もしもここで上手に気づかない振りが出来てたら、時間とともに彼の気も変わったかもしれないのに。
「俺・・・ごめん」
目を伏せた彼の言葉に、理由を聞いてもいないのに傷ついて、同時になじりたくなるほどの激情が湧き上がってきて、私は彼のシャツの胸を掴んでいた。
「ごめんて何?どういうこと?」
「だから、っていうか、俺・・・」
「こっち見てよ、なに?なんなの?ねぇ、どうして目逸らすの?」
この先を聞くのが怖かった。それでも聞かずにいられないのはなぜだったんだろう。
「俺、そのぉ、お前のこと、嫌いになったわけじゃないんだ。ただ、前とは違うんだ」
「・・・違うって」
私と目を合わさぬまま、彼は小さく咳払いをした。
「ごめんな。前みたいに、好きだって気持ちが・・・今はなくなってる。本当にごめん・・・」
その後のことは、あんまりはっきりとしてない。もしかして泣きわめいたかもしれないし、凍り付いて何も言えなかったのかもしれないし、いずれにせよ、彼の言葉を受け止めて、私たちはそれぞれの道へ一人で進むことになったことに変わりはない。
もしも、女の第六感が、もっと早く働いていたら。
もしも、彼にもっと優しくできてたら。
もしも、私が甘えすぎずにいたら。
もしも・・・・・・。
思い返せばきりがないたくさんの「もしも」が、今でも私を悩ませて、何度も「ごめん」と口にした彼の辛そうな顔がフラッシュバックする。私がも う少し早く気づけてたなら、彼を追い込むこともなく幸せでいれたかもしれないのに・・・それさえも「もしも」のことでしかない。いっそのこと、他に好きな 人ができたと言ってくれたらよかったのに、いつでも正直だった彼は最後まで誠実で、それが余計に私を泣かせてしまう。
大好きだったあの川沿いで見る夕日も、帰り道に見上げたおぼろ月夜も、彼が隣にいたから感動を分け合えたのに、一人でいると、その美しささえわからなくなりそうだ。
繋いだ手が大きくて、いつも温かかったこと。笑うと目がなくなるところ。彼の為に生まれてきたと思えたことで、自分の存在への自信に繋がったこと。
優しかった彼のすべてが今でも私を苦しめるけど、こんなに人を好きになれた自分を悔やんではいない。また誰かを好きになることをまだ想像すらできないけど、いつかそんな日が来ても、彼のくれたものを忘れずにいたいと思う。
もしも、愛する誰かに出会える日がきたら。
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「やっぱりイチゴにしとけばよかったなぁ」
「なんだよ、お前。ずーっとハーゲンダッツのチョコアイス食べたいって言い続けてたから、わざわざ来たのに、ここまできてイチゴなわけ?」
そう言われて唇を尖らせた私に、彼は少し呆れたようにため息をつくと、
「俺がイチゴにしといてよかったな」
「うんっ」
「その満面の笑み、わかりやすすぎるから」
と言って、いとおしいものを見るように目を細め、私のほっぺたを摘まんだ。
「痛い、痛いってばぁ」
優しく笑う彼は、なぜかそのまま手を離してくれない。
「痛いって、ほんとに痛いんだってば・・・」
―――そこでハッと目が覚めた。
暗い部屋の中、私は見慣れた自分の部屋のベッドで横たわり、つねられていたはずの頬には、寝る間際まで読んでいた文庫本の角が当たっていた。
「夢か・・・」
吐き出したため息が部屋の中に響いて、吸い込まれるように消えた。
彼の夢を見たのは、久しぶりだ。再会の喜びで胸が甘く痛み、同時に胃のあたりが重くなっている。まだ彼が私の中に根強く残ってるのを、嫌と言うほど実感させられる、こんな時。
楽しかった記憶の断片が、夢の中では見れるというのに、目覚めてる時に思い出すのは、最後のキスのことばかり。
それまでと違って短く、愛情よりも情けを感じるようなキスは、気づかない振りしようにも女に生まれた宿命なのか、私の第六感が激しく点滅してしまい、それが顔と言葉に出てしまった。
「・・・何かあった?」
「え?」
キスのすぐ後、私の肩に手を添えていた彼の目が動揺をあらわにした。
「何か隠しごととかない?」
私の言い方は強くて、彼の逃げ場をなくしてしまったのかもしれないと今になって思う。もしもここで上手に気づかない振りが出来てたら、時間とともに彼の気も変わったかもしれないのに。
「俺・・・ごめん」
目を伏せた彼の言葉に、理由を聞いてもいないのに傷ついて、同時になじりたくなるほどの激情が湧き上がってきて、私は彼のシャツの胸を掴んでいた。
「ごめんて何?どういうこと?」
「だから、っていうか、俺・・・」
「こっち見てよ、なに?なんなの?ねぇ、どうして目逸らすの?」
この先を聞くのが怖かった。それでも聞かずにいられないのはなぜだったんだろう。
「俺、そのぉ、お前のこと、嫌いになったわけじゃないんだ。ただ、前とは違うんだ」
「・・・違うって」
私と目を合わさぬまま、彼は小さく咳払いをした。
「ごめんな。前みたいに、好きだって気持ちが・・・今はなくなってる。本当にごめん・・・」
その後のことは、あんまりはっきりとしてない。もしかして泣きわめいたかもしれないし、凍り付いて何も言えなかったのかもしれないし、いずれにせよ、彼の言葉を受け止めて、私たちはそれぞれの道へ一人で進むことになったことに変わりはない。
もしも、女の第六感が、もっと早く働いていたら。
もしも、彼にもっと優しくできてたら。
もしも、私が甘えすぎずにいたら。
もしも・・・・・・。
思い返せばきりがないたくさんの「もしも」が、今でも私を悩ませて、何度も「ごめん」と口にした彼の辛そうな顔がフラッシュバックする。私がも う少し早く気づけてたなら、彼を追い込むこともなく幸せでいれたかもしれないのに・・・それさえも「もしも」のことでしかない。いっそのこと、他に好きな 人ができたと言ってくれたらよかったのに、いつでも正直だった彼は最後まで誠実で、それが余計に私を泣かせてしまう。
大好きだったあの川沿いで見る夕日も、帰り道に見上げたおぼろ月夜も、彼が隣にいたから感動を分け合えたのに、一人でいると、その美しささえわからなくなりそうだ。
繋いだ手が大きくて、いつも温かかったこと。笑うと目がなくなるところ。彼の為に生まれてきたと思えたことで、自分の存在への自信に繋がったこと。
優しかった彼のすべてが今でも私を苦しめるけど、こんなに人を好きになれた自分を悔やんではいない。また誰かを好きになることをまだ想像すらできないけど、いつかそんな日が来ても、彼のくれたものを忘れずにいたいと思う。
もしも、愛する誰かに出会える日がきたら。
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