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Short Story by Music

あの曲が小説になったら・・・

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ズッコケ男道

【小説】ズッコケ男道 (楽曲 by 関ジャニ∞)

************************

 会社の人が映画のタダ券が二枚あると言うて、それを手にした俺は、その場に居合わせたお気に入りの新入社員の女の子と映画デートに行って、気分よく帰ってきたはずやった。

「何しとんねん、お前!なんであん時"送ってく"って言わへんかったんや!」

 さっきから俺は、俺に説教されとる。俺は眉間に皺を寄せて、怒鳴り散らす時のオトンの顔によう似てる。10代の頃はオカン似やったはずなんやけど、いつの間にか嫌だ嫌だと思うてたオトンの子やって自覚せざるを得ない顔になってきたようや。

「女心は察してなんぼや。素直に口に出せへんねん!駆け引きの基本やろが!ほんっまにしょーもないやっちゃなぁ、お前は!」

 酔っ払ってスナックのねえちゃんを口説いても、軽くあしらわれてまうようなオトンに似てきてる俺にこんなこと言われても、ちっとも説得力がない。

 あの子はほんまに優しい子やから、俺が送ってくって言うても、大丈夫やって笑顔で気を使うてくれたんや。あーもう、あっこでもう一度「俺が送り たいから送らせて」って言うてたら男の株も上がったんやろうけど、あんまりしつこいんもどうかなぁって引いてもうた。その方がスマートなはずやと思うたけ ど、やっぱりあっこは押すとこやったんちゃうかなぁと後悔しとった。

 はぁとため息をついて鏡の前から離れると、名誉挽回すべく、今度は携帯電話を手にとってポチポチしてみる。

 『無事に帰れた? 心配やから家に着いたらメールしてな!』

 ……送信、と。
 一応、最後まであの子を気遣う男をアピールしてみる……って、心配やったら送ってけって話やんなぁ? あー、もう、俺、ほんまになにしとんねん。

 携帯を床に投げて、そのまま仰向けになって天井を見上げとったら、ケツメの"そばにいて"の着メロが部屋に鳴り響いて、俺は慌てて跳ね起きると、携帯を開いた。

 『今、家に着きました。今日は楽しかったです!
  ありがとうございましたハート

「うわっ、ハートついとるし!」

 コレはイケてるんちゃう? あの子も俺にええ感じってことやろ? 俺は一応先輩で男やから、女の子からは誘いづらいやろし、俺が少し踏み込んでプッシュしとかな!
 両手で携帯をつかむと、意味なく咳払いをして返信をポチポチした。

 『よかったうまい!明日の夜は、送らせてな?』

 大人らしい誘い文句やろ、これは。明日も会おうって暗に言うてるし、友達以上の距離感を演出できてるはずや。
 送信すると、すぐにケツメが流れ出し、俺は期待を胸にメールを開いた。

 『すごく残念なんですけど、明日は予定があるんです涙

 会いたいのに会われへんのが残念って、泣いとるやん……なんてかわいい子なんや。ほな、ここは大人の男を見せたろかっ!

 『帰りに迎えに行くよ。一人で帰宅させるんは、やっぱり心配やから』

 そうそう、俺が車で送っていって、別れ際にこうなんねん。

 「今日は本当にありがとうございました」
 「いや、こんなことぐらい大したことやないから(余裕の顔で)」
 「少しの時間だけでも、会社の外で会えて嬉しかったです」
 「ほんまに?」
 「はい(少し照れながら)」
 「ほな、その言葉の証拠を見せてほしいな」
 「え!?(ハッとして目を丸くする)」
 「(顔を近づけて優しくチュー)」

 ……よしっ! 明日こそ、バシッとキメたろ!
 一人でガッツポーズを決めたところで、ケツメが流れた。

 『帰りはいつも迎えに来てもらってるので大丈夫ですよるんるん
  いつも気遣ってくださって、本当にいい人ですねうれしい顔

「迎えに来てもらってるんや。お嬢様なんやなぁ」

 少しがっかりしつつも、こんなメールを返してみる。

 『そうなんや~あせあせそしたら、夜に会いに行こうか?』

 厳しい家なんやな。確かに親も大事にせなあかんしな。せやけどケツメも"門限やぶり"で言うてるやん。"連れ出してあげる 夜のデート"って。よしよし、俺が大人のデートの仕方を教えてやらな。大丈夫、かわいがってあげるから。
 すぐにきた返信を開くと、俺の脳は一瞬思考停止した。

 『明日は彼氏がお泊りなんで、また別の日に遊んでくださいハート

 愛らしいハートがついとるのに。意味がわからへん。
 
「……か、彼氏!? 聞ーてへんがなっ!!!」

 何度読み返してもしっかり"彼氏"って書いてある。
 確かに彼氏がおるかどうか聞かんかったのは俺やけど、それは下心見え見えになるかもしらんって配慮の賜物やってん。せやけどむっちゃ楽しそうやったやんか。なんで、なんでこうなるん?

 『そうなんやウインクラブラブ邪魔するとこやったな!
  明日楽しんで! ほな、また月曜日会社でな~手(パー)

 俺の精一杯の返信。気分はグッド(上向き矢印)から急激にバッド(下向き矢印)や。
 がっくり来て、歯でも磨いて不貞寝したろと洗面所へ行くと、さっきとは打って変わった情けない顔をした俺と目が合うた。

「アホっ!こんなしょーもない顔しよって」

 鏡の中の俺に渇を入れてみても、はにかんだように笑う俺は泣きそうな顔をしとった。

「あの女は見る目がないだけや。次や、次っ!次行っとかな!」

 両手で頬をバチバチ音が鳴るほど叩いて俺を睨みつけると、大きく息を吸って鼻から吐き出した。

「来週の合コンがあるやんか!勝負はそこからや!」

 せやせや。だいたい社内恋愛なんか今どきナンセンスや。
 コンパやったら出会いの間口も広がるっちゅーもんや。

「大丈夫や!お前ならイケる!イケてるでぇ!」

 オトンによく似た俺が、俺を励ましとった。

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