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Short Story by Music

あの曲が小説になったら・・・

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イッツマイソウル

【小説】イッツマイソウル (楽曲 by 関ジャニ∞)

****************

 コンパで目移りするほど可愛い子が並んでいても、ちょっといい感じになるか、付き合っても短い期間で終わってしまうことが多い。
 結婚願望が人一倍ある俺なのに、すぐに醒めてしまうのだ。なぜだろう?女友達の分析によりと、結婚願望が強いからこそ、可愛いだけじゃ物足りな いんだと言う。確かに自分との価値観の違いが見えてくると、いくら努力して肉じゃが作ってもらってもありがたみを感じなくなるし、綺麗に化粧してくれる努 力さえ、待ってることの方が苦痛になってしまったりする。
 この年になれば当たり前かもなぁ。もうお飾りの女の子の相手してるほど暇ってわけでもないし、喜びを見出すポイントが昔とは随分変わってきたような気もする。
 だからコンパにテンションがあがるのも最初だけで、今回みたいにそこそこ可愛い子が並んでるのを見ても・・・正直顔も見てるけど、態度とか行儀とかそういうところに目が行きがちになる。こんな俺ってば、まるで姑みたいだ。

「サラダ、よかったらどうぞぉ」
 正面にいたストレートヘアがさらさらな子が笑顔で皿に取り分けてくれる。
「あぁ、ありがとう」
「グラス空いてますよ。次なに飲みますか?」
 その隣のゆるやかパーマヘアがメニューを差し出してくれる。どんなコンパにも一人や二人いる気が利くタイプの子だ。
 他の子たちもそれぞれ俺の友達に気を使い、どうやらいい子ばっかりに恵まれたようだ・・・と思ったら、一番端で自分の世界を作ってる子がいるみ たいだ。こういう子もたまにいるんだ、コンパ慣れしてないで、開き直って食べに走るようなタイプ。見てる時間がもったいないくらいに思えて、視線を移そう としたその時・・・はっとした。
 なんて箸使いの綺麗な子なんだ。魚の骨に身のかけらも残さずに。まるで料理の鉄人に出てくるような玄人料理批評家なみだ。俺が釣った魚を余すこ となく大切に食べて、もしかしたら骨を素揚げして骨せんべいにまでして平らげてくれる姿が頭に浮かんでくる。育ちがいいのかもしれない。
 トイレに立つ振りをして、彼女の隣にさりげなく座ってみると、俺をちらっと一瞥、特に興味もないといった顔をされた。
「きみ、綺麗だね」
「は?」
「魚の食べ方さ、すっごい綺麗だよね」
「あぁ、そうですか?」
 さして話を広げる気もない、とことん気が利かない、もしくは空気が読めない子なのかもしれない。顔も正直この中だと微妙なラインだ。
 もうフェイドアウトしようかと思い始めたそのとき、彼女がぽつりと言った。
「この骨、素揚げにしてくれないかなぁ」
 ―――この瞬間、俺は自分が恋という泉に落ちる音を聞いた。


 初デートに、普通2時間も遅刻するか? しかもメールで遅れますって入って待ちぼうけさせられてる俺って・・・。
「お待たせしました!」
 後ろから声をかけられて振り返ると、待ちわびたあの子が立っていた。いつの間にか妄想の中で美化してたのか、思ってたより可愛いわけじゃない。さすがあのコンパの後に誰も興味を示してなかっただけはあるかもしれない。
「汗、すごいですね」
 そう言うくせにハンカチの一つ出てくるわけじゃない。遅くなってすみませんの一言もない。「キミを待ってて汗だくになったのに」と言ってやりたいところで、大人気ないかなと思って違うことを言ってみる。
「どこか行きたいところある?」
「あ。はい、スーパー行きたいです」
「へ?スーパー??」
「今日、特売日なんですよね~」
 初デートがスーパーって、いったい何を考えてるんだろう。そう思いつつ、一路スーパーへ向かうと、夏の暑さに負けない乾物系ばかりを選んでかごに入れていく・・・もしかして今夜は俺の為に料理作ってくれるのかと期待して「なに作るの?」って聞いてみたら、
「今日は外食だと思って考えてないです」
 って回答。少しがっかりしつつ、一緒にレジに並んだその時だった。
 ・・・はっとした。彼女のポケットから、六角形に畳まれたスーパーの袋が二つ出てきた。
「あ、袋は結構です」
 丸めて捨てるんじゃなく、縦に折りたたんで器用に縛って、それをストックしてるんだね。買い物の時、それを二つ持って行けば袋をもらわずにすむし・・・エコをここまで実践できてる同世代の子を他に知らない。
「俺、荷物持つよ」
 袋を両手に提げた俺の胸が、きゅんきゅんと音を立てている。スーパーの出口近くにあったアイスクリーム屋で立ち止まった彼女が「アイス食べた い」とつぶやけば、即座に財布を取り出して買ってあげたいと思うし、ショーウィンドウでサンダルに見惚れてたらプレゼントしたくなる。
 ああ、完璧に惚れてしまってる。この子の願いなら何でも叶えてあげたい。
「なにかあったら何でも俺に言って?」
 きょとんとした顔で俺を見上げた彼女に、またきゅんとしてしまう。
「はい、そうさせてもらいます」
「うん、ほんとにそうして?」
「わかりました」
 にこっとした顔に、俺たちの明るい未来が見えるようだった。


 明日は朝から大事なプレゼン会議の準備で、いつもより2時間早く出勤だ。風呂も入ったし、歯も磨いたし、着ていくスーツもシャツも靴下も準備した。あと はあの子のことを考えながら眠りにつくだけ・・・と思っていた深夜2時、暗くなった部屋で突然ピンク色の光を点滅させ震え出した俺の携帯!
 慌ててベッドから飛び起きて勢いよく携帯を手にしたのは、それが彼女からの返信メール以外の初めての連絡だったからだ。
 こんな時間の連絡なんて、ひょっとして「眠れなくて声が聞きたくなっちゃった」なんて甘えん坊モードに違いない。そう確信して、メールをチェックした。

 『今から渋谷に迎えに来てくれませんか?』

 ちっとも可愛げのないシンプルな一言。絵文字の一つも入ってない・・・じゃなくて、今から渋谷って、俺ん家、浅草なのに、あの子ん家、世田谷で逆方向だし、しかも2時って・・・終電うっかり逃したって時間じゃないだろ!
 さすがの俺も優しく「行ってあげるよ」とは言い難く、しばらく返信を躊躇っていると、またあらたなメールが届いた。

 『寝てますよね・・・他あたるんで気にしないでくださいね~』

 他って、他に行かれるのはやっぱり嫌だ。ぐっと奥歯をかみ締めて「今から行くよ」と返信し、俺は泣きそうになりながら服を着替え始めた。


 高速をぶっ飛ばし、渋谷に着いたのは2時半。我ながら最速記録だと思う。指定された東急文化村に車をつけると、俺に気づかないまま膝を抱えてしゃがみこむ彼女にゆっくりと近づき、はっと顔を上げたところで、手を差し伸べた。
「本当に来てくれたんですね」
「そりゃ来るよ。こんな時間に一人で渋谷なんて、心配するに決まってるだろ?」
 俺が女なら、もうオチるはずだ。こんなことまでしてくれる男に。しゅんとして元気がない彼女を、俺は両肩をつかんで立ち上がらせた。
「ありがとう・・・」
「さ、いいから、早く車乗って?」
「はい・・・」
 助手席に座った彼女はシートに深く身を沈め、鞄を胸に抱え込んで、ぼーっと外を眺めている。きっと友達と喧嘩でもして一人で自棄酒でも飲んでたのかもしれない。
「俺でよかったら話し聞くよ?」
「でも・・・」
「ほら、愚痴でも何でも吐き出したらすっきりするよ?」
 彼女は俺をちらっと見て、「じゃあ・・・」と切り出した。
「さっきまでラブホにいたんですけど・・・」
「ら、らぶほ!?」
「はい。いきなり今夜が最後って言われちゃって」
「・・・うん、今夜が最後って。うん・・・誰に?」
「彼氏に」
 彼氏!?彼氏なんていたのっ!?? 
 ・・・落ち着け、俺の心臓。彼氏に今夜が最後って言われたってことは・・・
「・・・別れ話ってこと?」
「はい、別れ話だったんです」
 あぁ、この子にとっては落ち込むことも、俺にはチャンス到来ってことだよな?普通はここで優しく慰めて、新しい恋が始まるっていうのが王道だ。彼女も俺にそれを期待してこんな時間に呼びつけたに決まってる。
 いいよ、俺はキミの全部を受け止めてあげられる。そのわがままなところも、天然なところも、空気が読めないところも、全部、全部。
「キミの価値がわからない男なんて、別れて正解だよ。どんなにキミが素敵な女性か、俺なら・・・」
「別れてません!別れる気なんて、さらっさらないです!」
 車の中で耳がキーンってなるくらい、彼女の声が大音量で響いた。ついでにハンドル操作を誤りそうなくらい、クラっとした俺の頭。いっそこのままガードレールに突っ込んでやろうか。
 そうこうしてるうちに、あっという間に彼女の家に着いてしまった。彼女が助手席から降りて、俺も最後にキスぐらいしなきゃ気が治まらないから、車から降りて彼女に向き合うように立った。
「あのさ、俺の考えてること、わかる?」
 俺を見上げてきょとんとし、すぐに視線を落とし、俺が羽織ってるカーディガンの裾を摘んで、彼女は言った。
「あの、お願いがあるんですけど」
「え、な、なに?」
 これは恋の急展開か?照れて視線を外し、可愛らしくキスのおねだり?いや、さすがにいきなりキスはないだろ。抱きしめてくださいって言われるのかも。
 ドキドキ震える俺の心臓。静めようにもどうにもならず、俺の両手がゆっくりと彼女の両肩へ伸びていき・・・

「ここ、虫食いで穴あいてるんで、修繕してもいいですか?」
 と、彼女は摘んだカーディガンの裾をぐいっと持ち上げて俺に見せた。
「え・・・」
 宙に浮いたまま凍りついた俺の両手。「5分で直しますから」と言う彼女。頭がフリーズしたままカーディガンを脱ぎ、それを持って家に入っていった彼女の背中をぼんやりと見つめ、頭から溢れ出した妄想で終わってしまった俺の想いが音を立てて崩れていくのを感じていた。
「なにしてんだ、俺・・・」
 時間の感覚どころか、体のどの箇所も感覚がなくなったようだ。ちょうど胸の真ん中らへん以外は。
「・・・お待たせしました」
 ハッと気づけば、目の前に彼女が立っていた。いつの間にか5分たっていたらしい。カーディガンを広げられ、促されるまま袖を通すと、その裾につけられた見慣れないものを摘んで顔に近づけて見てみた。
「それ、四葉のクローバーです。ワンポイントになるし、可愛いかと思って」
「これ、キミが縫ったの?」
「はい、お裁縫結構得意なんです」
 ただ穴を埋めるんじゃなくて、こんな短時間で刺繍みたいな小細工ができるなんて、なんて器用で繊細でセンスがあるんだろう。黒地に綺麗な緑色の クローバーがとっても映えている。それに塞ぎこんだ顔しか見てなかった今夜、こんな風に突然にっこりと微笑まれたら、可愛く見えて仕方ない。
 ・・・もう、誰がどう言おうが、この気持ちを止められない。
「ありがとう・・・」
 思わず抱きしめたら、彼女がハッと息を飲んだ気配がした。
「本当にありがとう。俺、本当に大事にするから」
 俺なりの告白の言葉だった。
「嬉しいです」
 彼女の返答を聞いて、俺はもう胸がいっぱいで、キスしようと体を離し、顔を覗きこんだ。
「そんなに喜んでもらえるなら、手抜きしないでもっと立派な刺繍にしたらよかったかも」
「・・・え?」
「本当は黒い糸が切れちゃってたんで、緑でやったんですけど、目立っちゃうから無理やりクローバーにしちゃったんです。でも他に修繕するものあったら、やりますよ。裁縫はライフワークなんで」
 ああ、嬉しいよ。キミが裁縫してる姿を想像するだけで萌えるよ。でも、俺の心は複雑で収集がつかないことをキミはまったく気づいてくれない。
「・・・破れた俺のハートを修繕してくれよ」
 そうぼやくと、彼女は小さく吹き出した。
「それは大人なんで、自分でどうにかしてください。っていうか、ハートを修繕っていくらなんでもクサすぎますよぉ!まだ若いのに」
 あぁ、もう。機関銃に撃たれるが如く穴をあけられ、傷つけられていく俺の心。なのにどうしてこんなにときめくんだろう。俺って実はドMなんだろうか。
「今夜は本当に助かりました。もうこんな時間に呼び出したりしませんから」
 彼女がしおらしく頭をさげるのを初めて見て、またきゅんとしてしまう。
「いいよ、また何かあったら、いや、何もなくても気軽に連絡して?」
「え、いいんですか?」
「うん、本当に」
「わかりました。また連絡しますね」
 おやすみなさい、と言って彼女はそのまま家に吸い込まれるように消え、ついでに灯っていた玄関の明かりまで消えてしまい、周囲は一気に暗さを増した。
 あぁ、このままキミの部屋の明かりが灯るのを眺め、それが消えて眠りについたのを見届けて、明日どんな服を選んで会社へ行くのかをここで観察し ていたい。一緒にいられるなら何時間でも待つし、アッシーでもメッシーでもかまわない。俺じゃない誰かを好きでも、いつか振り向いてくれると信じて、どこ まででも尽くせるよ。
 全身全霊かけてキミを愛してるって言えるのは、この世に俺たった一人だけってことは自信を持って言える。だからこの愛情に気づいた時、キミが喜びに咽び泣く姿がいつも浮かぶんだ。
 そう、今夜も。
 ベッドで目を閉じればそこに、キミがいるから。

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