Short Story by Music
あの曲が小説になったら・・・
花火
花火 (楽曲 by aiko)
*********
ちょっと油断すると、ほら、まただ。
先月みんなで行った多摩川でのバーベキューの時のこと思い出してる。
焼き担当の私が一人で汗ダクになってたのに気づいて、自分の首にかけてたタオルを貸してくれたよね。
「ちょっと汗くさいけど」って言ってたけど、頭の中ではドドーンッて花火が打ち上がってた。
キミの汗の匂いにどれだけ興奮してるかを隠す方に必死だったよ。
あのタオル、洗って返すって約束したけど、実はジップロックに入れて保管してると知ったら、ドン引きするかな。
・・・間違いなく、引くよなぁ。
こんなことを考えながら、眠りの渦に巻き込まれてく。
キミを好きになってから、毎日がこんな感じだった。
月曜の朝、現実が私を待っていた。
いつもの時間より1時間早く会社へ行って、それよりもっと早く出勤してるキミのデスクに顔を出す。
カタカタ、彼がPCに向かっている音が誰もいない静かなオフィスに響いてる。
胸が痛んで、なかなか声がかけられないのは、今朝まで見てた夢のせいかな。
キミはあのバーベキューの後、私を部屋へ誘ったんだよ。
散らかった部屋は女の痕跡がまるでなくて、THE男の一人暮らしだった。
「片付けベタだから、二人で広い部屋へ引っ越そう」
キミはそう言って私をぎゅっと抱きしめたの。
・・・・・・なんて虚しいんだろ。
キミと会えるのも最後かもしれないのに、これから先一緒に住む夢で目覚めるなんて。
やめちゃえばいいのに。
いっぱい泣いた涙で、胸の中にくすぶってる火を消したつもりになったことも何度もあったというのに、なんで私はまたキミに会うために早起きなんてしちゃってんだろう。
「あれ?お前、どうしたんだよ、こんな朝早く」
キミが突然振り返ってそう言った。
ドキッとした。
無人のオフィスで私にだけに向けられた親しみのある笑顔が眩しくて。
「あー、うん、ちょっと早く起きちゃったから、覗きにきた、わけ」
最終日だしさ、と付け加えると、「さすが同期だな」とキミは嬉しそうに笑った。
「同期の中でもお前は特別だな。一番友達甲斐があるやつだ」
「ふふ、でしょ?大事にしてよ~」
「帰ってきたら、真っ先に連絡するよ」
こういうところが思わせぶりなんだよ。
私を勘違いさせて、有頂天にさせて。
あの言葉を、何度言いかけたかわからない。
・・・つまり、一度も言えなかったわけだけど。
勝手に深読みしたり、裏があるんじゃないかって疑ったり。
妄想が妄想を呼んで、気づいたら自分の感情に振り回されてクタクタ。
友達なんて好きになるもんじゃない。
普通の恋愛しようと思って、合コン行ったりもしたっけ。
そのたび、絶妙なタイミングで連絡が入ったりするんだ、キミから。
いつまでたっても消えてくれないキミの存在。
増えていくばかりのキミとの思い出。
深まる友情。
高まる気持ち。
誰より近くて、誰より遠い。
「今日、何時の飛行機だっけ?」
「16時。昼までに簡単に挨拶回りして、空港直行するわ」
「荷物は全部送ったの?」
「送ったよ、知ってるだろ?引っ越しの梱包手伝ってくれたんだから」
そうだ。
大学時代から10年も住み続けたというキミの1Kのマンション、前の彼女の忘れ物をゴミ袋いっぱいにして捨ててやったんだった。
それと一緒に「これは捨てないで」と言われたのに、こっそり捨ててしまった彼女との幸せそうな写真。
先に転勤先に送った箱の中には、いくら探しても出てこないんだよ。
キミが今でも大好きな元カノの写真。
「そっか。そうだったよね」
「相変わらず忘れっぽいなぁ。俺がいなくなって大丈夫かよ?」
「大丈夫かって、、、」
大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃないよ。
顔が、耳がかぁっと熱くなって、思わずぎゅっと拳を握りしめてうつむいた。
あの言葉がぐぐっと上がってきて、喉まで出かかってる。
ダメもとで言ってしまおうか。
明日はもう、キミはここにいないから、気まずさは回避できるし。
ちょっと距離をおけば、何事もなかったように元に戻れるかもしれない。
コラコラ、冷静にならなきゃ。
言ったところでどうにもならないってわかってるでしょ。
傷つくだけだよ。
私の中で天使と悪魔が口論してる。
どっちが天使でどっちが悪魔か、もはやよくわからないけど。
「なんだよ、泣いてんのか?」
「え?」
慌てて頬に手をやると一筋の涙が落ちるのに触れた。
「やだ、ごめん」
それをさっと拭うのと、キミが席を立ってこっちへくるのは同時だった。
目の前に立ったキミ。
うつむいてキミの足元を見てるだけの私。
「一生の別れじゃあるまいし、お前、こんなに泣き虫だったかぁ?」
頭をポンポンとされて、顔をあげた。
特大の打ち上げ花火みたいだよ、至近距離でのキミの笑顔。
花火が弾ける時の振動みたいに、胸がドクン、ドクンと波を打つ。
好き。
大好き。
私の気持ちが離れることでどう変化するか、流れに任せてみればいい。
どうせ簡単に消えない、消せないんだから。
この距離から近づけなくても、遠ざかることはないんだから。
*********
ちょっと油断すると、ほら、まただ。
先月みんなで行った多摩川でのバーベキューの時のこと思い出してる。
焼き担当の私が一人で汗ダクになってたのに気づいて、自分の首にかけてたタオルを貸してくれたよね。
「ちょっと汗くさいけど」って言ってたけど、頭の中ではドドーンッて花火が打ち上がってた。
キミの汗の匂いにどれだけ興奮してるかを隠す方に必死だったよ。
あのタオル、洗って返すって約束したけど、実はジップロックに入れて保管してると知ったら、ドン引きするかな。
・・・間違いなく、引くよなぁ。
こんなことを考えながら、眠りの渦に巻き込まれてく。
キミを好きになってから、毎日がこんな感じだった。
月曜の朝、現実が私を待っていた。
いつもの時間より1時間早く会社へ行って、それよりもっと早く出勤してるキミのデスクに顔を出す。
カタカタ、彼がPCに向かっている音が誰もいない静かなオフィスに響いてる。
胸が痛んで、なかなか声がかけられないのは、今朝まで見てた夢のせいかな。
キミはあのバーベキューの後、私を部屋へ誘ったんだよ。
散らかった部屋は女の痕跡がまるでなくて、THE男の一人暮らしだった。
「片付けベタだから、二人で広い部屋へ引っ越そう」
キミはそう言って私をぎゅっと抱きしめたの。
・・・・・・なんて虚しいんだろ。
キミと会えるのも最後かもしれないのに、これから先一緒に住む夢で目覚めるなんて。
やめちゃえばいいのに。
いっぱい泣いた涙で、胸の中にくすぶってる火を消したつもりになったことも何度もあったというのに、なんで私はまたキミに会うために早起きなんてしちゃってんだろう。
「あれ?お前、どうしたんだよ、こんな朝早く」
キミが突然振り返ってそう言った。
ドキッとした。
無人のオフィスで私にだけに向けられた親しみのある笑顔が眩しくて。
「あー、うん、ちょっと早く起きちゃったから、覗きにきた、わけ」
最終日だしさ、と付け加えると、「さすが同期だな」とキミは嬉しそうに笑った。
「同期の中でもお前は特別だな。一番友達甲斐があるやつだ」
「ふふ、でしょ?大事にしてよ~」
「帰ってきたら、真っ先に連絡するよ」
こういうところが思わせぶりなんだよ。
私を勘違いさせて、有頂天にさせて。
あの言葉を、何度言いかけたかわからない。
・・・つまり、一度も言えなかったわけだけど。
勝手に深読みしたり、裏があるんじゃないかって疑ったり。
妄想が妄想を呼んで、気づいたら自分の感情に振り回されてクタクタ。
友達なんて好きになるもんじゃない。
普通の恋愛しようと思って、合コン行ったりもしたっけ。
そのたび、絶妙なタイミングで連絡が入ったりするんだ、キミから。
いつまでたっても消えてくれないキミの存在。
増えていくばかりのキミとの思い出。
深まる友情。
高まる気持ち。
誰より近くて、誰より遠い。
「今日、何時の飛行機だっけ?」
「16時。昼までに簡単に挨拶回りして、空港直行するわ」
「荷物は全部送ったの?」
「送ったよ、知ってるだろ?引っ越しの梱包手伝ってくれたんだから」
そうだ。
大学時代から10年も住み続けたというキミの1Kのマンション、前の彼女の忘れ物をゴミ袋いっぱいにして捨ててやったんだった。
それと一緒に「これは捨てないで」と言われたのに、こっそり捨ててしまった彼女との幸せそうな写真。
先に転勤先に送った箱の中には、いくら探しても出てこないんだよ。
キミが今でも大好きな元カノの写真。
「そっか。そうだったよね」
「相変わらず忘れっぽいなぁ。俺がいなくなって大丈夫かよ?」
「大丈夫かって、、、」
大丈夫じゃない。
全然大丈夫じゃないよ。
顔が、耳がかぁっと熱くなって、思わずぎゅっと拳を握りしめてうつむいた。
あの言葉がぐぐっと上がってきて、喉まで出かかってる。
ダメもとで言ってしまおうか。
明日はもう、キミはここにいないから、気まずさは回避できるし。
ちょっと距離をおけば、何事もなかったように元に戻れるかもしれない。
コラコラ、冷静にならなきゃ。
言ったところでどうにもならないってわかってるでしょ。
傷つくだけだよ。
私の中で天使と悪魔が口論してる。
どっちが天使でどっちが悪魔か、もはやよくわからないけど。
「なんだよ、泣いてんのか?」
「え?」
慌てて頬に手をやると一筋の涙が落ちるのに触れた。
「やだ、ごめん」
それをさっと拭うのと、キミが席を立ってこっちへくるのは同時だった。
目の前に立ったキミ。
うつむいてキミの足元を見てるだけの私。
「一生の別れじゃあるまいし、お前、こんなに泣き虫だったかぁ?」
頭をポンポンとされて、顔をあげた。
特大の打ち上げ花火みたいだよ、至近距離でのキミの笑顔。
花火が弾ける時の振動みたいに、胸がドクン、ドクンと波を打つ。
好き。
大好き。
私の気持ちが離れることでどう変化するか、流れに任せてみればいい。
どうせ簡単に消えない、消せないんだから。
この距離から近づけなくても、遠ざかることはないんだから。
*********後記**********
初のリクエストが「花火」。
夏の終わりにはおあつらえ向きです。
あらためて聴き直したこの曲、『花火=恋心』なんですよね。
私の解釈は・・・
叶わぬ恋。
伝えたいけど伝えられない気持ち。
ひょっとしてと思う瞬間があっても、思わせぶりなだけ(もやのかかった・・・のくだり)と思って、
踏み出せない。
好きでいることに疲れて諦めたくなるけど(火を消してしまいたくなるけど)、
ちょっとしたことで恋の気持ちが盛り上がってしまう(花火が打ち上がる)。
花火を上から見下ろしてるのは、ちょっと冷静になってるもうひとりの自分なのかな。
何気なく聞いてたら気づかずにいたリリックマジックに触れる良い機会となりました。
ささーっと書いてしまったのが、ちょっともったいなかったかな。。。
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