Short Story by Music
あの曲が小説になったら・・・
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大阪ロマネスク
【小説】大阪ロマネスク (楽曲 by 関ジャニ∞)
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ツレと別れて、大丸のとこから心斎橋駅の改札に向かう為に階段を下りた。毎日のように乗り込む御堂筋線には、こっから上りへ向かおうが、下ろうが、俺の胸をチクチクと締め付ける。
生まれも育ちも大阪やから出てこうとは思わへんけど、この街にはあいつとの思い出がありすぎる。
あいつは大学進学で大阪へ来ただけで、関西人やない。ずっとここにおると言葉から染まってく人をようさん見てきたけど、あいつはいつまでも変わら んかったな。せやからちょっとしたことで揉めると、言葉が乱暴やってよう言われた。その後の仲直りで「好きや」って言うても、それがどこまで伝わっとるん か不安になったくらいや。
2月に別れた時は、頭にきとったから携帯のメモリーも消してもうたけど、今はごっつい後悔しとる。けど、大学を卒業した今もまだ大阪におるなら、きっとどこかで会えると望みを捨て切れへんから、ついつい探してまうねん。二人で行ったとこに近づくと。
5分ちょっと揺られて乗り換えの梅田駅に着くと、JRに向かうあたりでまた苦しくなる。感情的になって全然知らん女の人の後姿に、走って追いかけて肩に手をかけてもうたことさえある。
梅田だけやない。さっきまでおった心斎橋でも、初めて出会うた御堂筋にあるOPAの前を通るだけで幻覚さえ見るし、戎橋では大たこ頬張っとった顔 を思い出すし、会社のある難波では、仕事の合間に用もないのに、あいつがお気に入りやったなんばパークスに足を向けるし、一人になりたくて大阪港へ行っ て、そこの観覧車に乗ってずーっとキスしとったこと思い出して泣いたこともあった。
なにしとんねん、俺。
なんぼ諦め悪い、女々しい未練たらたらな男やねん。
自分にツッコんでも、やっぱりあいつのことが忘れられへん。
桜が散り、緑の新芽が鮮やかになってきた4月の終わり。取引先のある西梅田へ書類を届けに行った時のことやった。御堂筋の交差点の向こう側にあいつによう似た姿を見かけて、胸がどくんと音を立てて気づいたら足が止まっとった。
「・・・まさか、な」
いちいち何でもあいつに結び付けようとしすぎや。自嘲的に微笑うと視線を逸らして、青になった信号を渡った。
しっかり見て確認したらええやんか。
見たら別人で失望すんのはお前やで。
心の中で二人の自分が葛藤しとって、思わず目を閉じたら思いっきりすれ違う人にぶつかってまう。
「ちょっとなにしてるの? 危ないじゃない」
聞こえた声にはっとして目を開けると、目の前にあいつがおった。
「ちゃんと目開けて歩かなきゃ、具合でも悪いの?」
「いや・・・」
何度も繰り返し思い出してた姿も、声も、瞬きしても消えへん。
別れた時と髪型の変わった、スーツ姿のあいつが俺を心配そうに見とる。
あんなに会いたかったのに、いざとなったら声も出えへん。周りの音も何もかもが綺麗になくなって、今の俺、お前しか見えてへん。
「あ、信号変わっちゃう。行かなきゃ。じゃあ気をつけてね!」
まるで何もなかったかのように明るい笑顔で髪を耳にかけると、あいつは手を振って反対側へ走って行ってもうた。
人ごみにまぎれて消えて行く。あの日のように。
「・・・待てやぁっ!」
裏返りそうになった俺の叫び声に、あいつは振り返った。
気づいたら交差点の中に立ち尽くしとった俺の周りには誰もおらんようなって車が走り出しとったけど、俺は睨みつけるようにあいつから目を逸らさんかった。
少し戸惑った顔。もうお前の中で俺は終わってるん?それとも・・・?
考えたところで堂々巡りや。そもそも思考が止まっとって、今はあいつを抱きしめたくて、もう離したくないって気持ちしかあらへんねん。
車が途切れた隙を見て、あいつに向かって全速力で走った。
目の前まで来ると邪魔な鞄を放り投げて、有無を言わせず自分の願望を実行した。
何度もその感触を確かめるように、髪に触れ、背骨を指でなぞって、自分の頬を擦りつけるように押し付けると、溢れてくる気持ちを言葉にした。
「好きや。お前が好きや」
小さな肩が、俺の腕の中で震えとる。
「好きやねん。ずっと会いたかってん」
俺の背中に細い腕の感触を感じた。
「私も、会いたかった」
その声でその言葉が聞けたことで、俺の胸が甘く痛み出した。
抱きしめた腕にもっと力を込めると、それに応えるように俺の背中も締め付けられた。
気づけば周りには好奇の目で見る人だかりができとったけど、そんなことでこいつを離されへん。やっと、やっと見つけられたんやから。
御堂筋には多くの人が行き交う。
きっと誰にもドラマがあるはずや。
俺らが出会い、別れ、また出会えたように。
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ツレと別れて、大丸のとこから心斎橋駅の改札に向かう為に階段を下りた。毎日のように乗り込む御堂筋線には、こっから上りへ向かおうが、下ろうが、俺の胸をチクチクと締め付ける。
生まれも育ちも大阪やから出てこうとは思わへんけど、この街にはあいつとの思い出がありすぎる。
あいつは大学進学で大阪へ来ただけで、関西人やない。ずっとここにおると言葉から染まってく人をようさん見てきたけど、あいつはいつまでも変わら んかったな。せやからちょっとしたことで揉めると、言葉が乱暴やってよう言われた。その後の仲直りで「好きや」って言うても、それがどこまで伝わっとるん か不安になったくらいや。
2月に別れた時は、頭にきとったから携帯のメモリーも消してもうたけど、今はごっつい後悔しとる。けど、大学を卒業した今もまだ大阪におるなら、きっとどこかで会えると望みを捨て切れへんから、ついつい探してまうねん。二人で行ったとこに近づくと。
5分ちょっと揺られて乗り換えの梅田駅に着くと、JRに向かうあたりでまた苦しくなる。感情的になって全然知らん女の人の後姿に、走って追いかけて肩に手をかけてもうたことさえある。
梅田だけやない。さっきまでおった心斎橋でも、初めて出会うた御堂筋にあるOPAの前を通るだけで幻覚さえ見るし、戎橋では大たこ頬張っとった顔 を思い出すし、会社のある難波では、仕事の合間に用もないのに、あいつがお気に入りやったなんばパークスに足を向けるし、一人になりたくて大阪港へ行っ て、そこの観覧車に乗ってずーっとキスしとったこと思い出して泣いたこともあった。
なにしとんねん、俺。
なんぼ諦め悪い、女々しい未練たらたらな男やねん。
自分にツッコんでも、やっぱりあいつのことが忘れられへん。
桜が散り、緑の新芽が鮮やかになってきた4月の終わり。取引先のある西梅田へ書類を届けに行った時のことやった。御堂筋の交差点の向こう側にあいつによう似た姿を見かけて、胸がどくんと音を立てて気づいたら足が止まっとった。
「・・・まさか、な」
いちいち何でもあいつに結び付けようとしすぎや。自嘲的に微笑うと視線を逸らして、青になった信号を渡った。
しっかり見て確認したらええやんか。
見たら別人で失望すんのはお前やで。
心の中で二人の自分が葛藤しとって、思わず目を閉じたら思いっきりすれ違う人にぶつかってまう。
「ちょっとなにしてるの? 危ないじゃない」
聞こえた声にはっとして目を開けると、目の前にあいつがおった。
「ちゃんと目開けて歩かなきゃ、具合でも悪いの?」
「いや・・・」
何度も繰り返し思い出してた姿も、声も、瞬きしても消えへん。
別れた時と髪型の変わった、スーツ姿のあいつが俺を心配そうに見とる。
あんなに会いたかったのに、いざとなったら声も出えへん。周りの音も何もかもが綺麗になくなって、今の俺、お前しか見えてへん。
「あ、信号変わっちゃう。行かなきゃ。じゃあ気をつけてね!」
まるで何もなかったかのように明るい笑顔で髪を耳にかけると、あいつは手を振って反対側へ走って行ってもうた。
人ごみにまぎれて消えて行く。あの日のように。
「・・・待てやぁっ!」
裏返りそうになった俺の叫び声に、あいつは振り返った。
気づいたら交差点の中に立ち尽くしとった俺の周りには誰もおらんようなって車が走り出しとったけど、俺は睨みつけるようにあいつから目を逸らさんかった。
少し戸惑った顔。もうお前の中で俺は終わってるん?それとも・・・?
考えたところで堂々巡りや。そもそも思考が止まっとって、今はあいつを抱きしめたくて、もう離したくないって気持ちしかあらへんねん。
車が途切れた隙を見て、あいつに向かって全速力で走った。
目の前まで来ると邪魔な鞄を放り投げて、有無を言わせず自分の願望を実行した。
何度もその感触を確かめるように、髪に触れ、背骨を指でなぞって、自分の頬を擦りつけるように押し付けると、溢れてくる気持ちを言葉にした。
「好きや。お前が好きや」
小さな肩が、俺の腕の中で震えとる。
「好きやねん。ずっと会いたかってん」
俺の背中に細い腕の感触を感じた。
「私も、会いたかった」
その声でその言葉が聞けたことで、俺の胸が甘く痛み出した。
抱きしめた腕にもっと力を込めると、それに応えるように俺の背中も締め付けられた。
気づけば周りには好奇の目で見る人だかりができとったけど、そんなことでこいつを離されへん。やっと、やっと見つけられたんやから。
御堂筋には多くの人が行き交う。
きっと誰にもドラマがあるはずや。
俺らが出会い、別れ、また出会えたように。
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